益進から皆様へ2020.02.04(更新日:2022.11.05)

事業用と居住用の賃貸借における原状回復の違い

明治時代の1894年に制定された現行の民法が2006年に法務省により全般的に見直しが行われ、本年4月に改正民法が施行されます。約200項目にも及ぶ改正事項の中には、瑕疵担保責任に関するものや、連帯保証人等の保証契約など、不動産に関する内容も多く含まれております。

事業用と居住用の賃貸借における原状回復の違い


今回の記事では、不動産賃貸借における原状回復について掘り下げてみようと思います。
原状回復とは、賃貸物件を退去する際に「入居時の状態=原状」に戻す(回復する)ことであり、
10年、20年経って黄ばみが生じた壁紙の汚れなど、普通に使用していても生じると考えられる汚損や損耗は、
通常損耗、賃借人の故意・過失等により生じた損傷などは、特別損耗として区分されます。
現行の民法には原状回復に関する規定はございませんが、この度の民法改正に伴い、原状回復について下記のとおり明文化されました。
2020-02-04_s[1].jpg
ただし、本条は任意規定であることから、当事者間で本条と異なる特約事項を定めることを妨げるものではございませんので、実務上でも、一定の範囲で通常損耗についても賃借人の負担とする特約事項の合意が交わされる事がございます。
一般的に、オフィスビル等のテナントの賃貸借契約においては、賃借人が通常損耗の補修費用を負担する特約事項は有効であるとされており、判例(東京高判 平成12年12月27日・判タ1095号176頁等)もございます。
これに対し、アパートやマンション等の居住用の賃貸借契約においては、消費者契約法が適用される事から、通常損耗についても賃借人の負担とする特約は、無効と判断される可能性があることに留意することが必要となります。
退去時における原状回復をめぐる紛争は少なくはないので、賃貸借契約書には、賃借人が原状回復義務を負う範囲や項目の明確化、可能であれば、原状回復工事を行う場合、どれくらい費用が発生するかの目安や負担割合等を記載しておくと良いと思われます。

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